演出対談 岡本隆生、中島康宏

「不思議の森の三日坊主」は、劇団四季の主力俳優としてこれまで数多くの舞台に立ち、現在はオリジナル・ミュージカルの演出や台本執筆に活躍する岡本 隆生が「作・演出統括」を。TVCMなどを含む様々な振付、ダンス講師としても活動しながら自身も数多くの舞台に立ち続ける中島 康宏が、「演出・振付」を務める。

確かな技術、豊富な経験、そして何よりも舞台にかける情熱を持つ二人が、この「不思議の森の三日坊主」をどのように創り上げていくのか。そして出演者たちを、こどもたちをどのように見つめているのか。その胸の内を語る。

三日坊主修行との出会いが生んだ、オリジナルの作品

作・演出統括を務める、岡本 隆生。新聞記事をきっかけに三日坊主修行と出会い、この作品が生まれたという。

「このミュージカルは、新聞記事から始まったんですよ」
『不思議の森の三日坊主』で作・演出統括を務める岡本 隆生は、そう語る。

「四国、徳島に、東福寺というお寺がある。そのお寺では夏休みに、三日坊主修行と称して、全国から集まった小学生たちに3日間の修行をさせている、という記事だったんですね。これは面白そうだ、とピンときて、実際に東福寺に行ってみたんですよ」

そこで岡本は東福寺の住職に会い、また現地を訪ね歩いてみて、ミュージカルの構想を得たのだという。
「三日坊主修行で、こどもたちは朝夕の勤行をし、森の中を散策し、渓流に遊ぶ。3日が過ぎるころには、みんながらっと変わるそうなんです。こどもたちの方も、『また来たい』って言って帰っていくそうなんですね。そんな話をお聞きして、そして森や川の様子を見せていただいて、これはひょっとしたらファンタジーができるんじゃないか、と思ったんです」

そのイメージには、日本各地に残る伝承、伝説が結びついているという。
「東福寺の近くには、今でこそ美しい渓流が流れていますが、もともと四国は昔から水に苦労してきた土地なんです。昔は少し日照りが続くと、すぐ乏しい水の奪い合いになってしまっていた。もちろん、水に苦労していたのは四国に限った話ではなくて、干ばつや洪水に苦しめられていたのは土地は多かった。だから、その水に対する畏敬の念が、『龍』、『龍神』という言い伝えを生んで、それがたくさん全国に残っている。そんな『龍』と『三日坊主修行』を組み合わせてみようと思いついたんです」

「そういう意味では、最初は気楽な思いつきで作ったストーリーだった、と言えるかもしれませんね」
岡本は、そう言って笑う。

「『龍』は、このミュージカルでは『ドラゴン』としていますが、超自然的なものの象徴ですね。これにこどもたちが対峙する。詳しくは舞台でご覧になっていただきたいですが、よくできたストーリーになっていると思いますよ。今回は『こどものためのミュージカル』ということにしていますが、大人が観ても十分面白いと思います」

本作では、岡本も出演者として舞台に上る。こどもを中心とする役者たちを引き立てていく演技は、さすがの一言。
演出・振付を務める、中島 康宏。劇団四季で岡本と出会ったという中島は、本作を質の高い作品だと言う。

そのストーリーを、演出・振付を中島は高く評価する。
「とても質の高いストーリー、作品だと思うんです。残念ながら、日本のミュージカルにはオリジナルの良質な作品が少ないのが現実。そんな中で、今回、ご縁があってこの『不思議の森の三日坊主』に関わらせていただいたのは、とてもありがたいことですね」

その「縁」は、劇団四季での出会いだったという。
「岡本さんとは、劇団四季の舞台でご一緒させていただきました。そのときの岡本さんは、とてもあたたかい芝居をされる方で。すごく学ばせていただくことが多かったんです。その時以来、いろいろとお声をかけていただいています」

何かをつかむ、そして輝く瞬間

今回、中島は演出とともに、劇中全ての曲の振付も担当する。
「出演者はこどもたちが多いですが、だからといって手加減する、といったことは全く考えていないですね。大人もこどもも、みな一緒にこの劇団という、いわば同じ船に乗った仲間で、年齢は関係ないです」

そして中島は、一人ひとりに合わせた振付が必要だ、と力説する。
「その人の魅力が引き出せると思ったら、振付を変えることも含めて何でもやります。技術的にはそれぞれ差があるかもしれませんが、大事なことは、その人の魅力を最大に引き出すこと。その人が輝くことが何よりも重要なんです」

稽古中の中島。確かな目で役者たちの個性を見極め、その魅力を引き出していく。

「振りを付けて、練習を重ねていくと、『人が変わっていく』んです」
中島はそう言って続ける。

「最初は、教わった通りに動きをなぞっている。ですが、ある時、その振り、動きの意味を自分なりに解釈して、何かをつかむんです。何というんでしょうか、人が『開く』とでもいうか、そうするとその人が舞台で輝き始めるんですよ」

これに岡本も同意する。
「何かをつかむ、という瞬間は確かにある。こどもたちがこういったミュージカルの中でそういった経験をする、というのは、学校の中だけではなかなか難しいかもしれない。そういう意味では、ミュージカルには教育という側面もある、と思います。最初は受け身で、教えられたことをやるだけだったこどもたちが、ある時主体性を持って扉を開ける。自力で何かをつかんで、それを自信に変えていく。私はそういう『つかんだ』瞬間を見たい。そうなるとこどもたち自身も楽しいし、そこからの伸びは速いですよ」

中島も、ダンスを通じた成長、ということを語る。
「ダンスは、身体の動きを使って表現する、という経験ですね。特に小さいこどもたちは、自分が考えていること、感じていることを言葉ではなかなか表現しきれないことがあります。それが、ダンスによって表現できるようになる。やってよかった、と感じてもらえる瞬間、だと思います」

信頼、そして感謝

今回の「不思議の森の三日坊主」は、岡本が「作・演出統括」、中島が「演出・振付」を務める。二人は互いのことをどう見ているのか。岡本は、中島を次のように評する。
「中島さんは、非常にシャープな振りを付ける。同時に想像力も非常に豊か。だから、常に意外性のある、意表を突く舞台を作り上げてくれます。それに人間性も実に素晴らしい。誰からも好かれて、頼られる。もちろん私も、本当に頼りにしていますよ」

期待に応えられるようにしたい、と中島は笑い、そして岡本の印象を語る。
「岡本先生は、言葉を大切にされる方です。ほんの一言の台詞でも、正しい気持ちで語られているかどうかを見抜いて、とことん直していく。その結果できあがった演技は、例えば『おはよう』という一言だけでも違ってくるんですよ」

そして中島は、「作・演出統括」という岡本の立ち位置について、次のように言う。
「脚本を書いて、自身で演出をする、ということは、すごく価値のあることだと思います。一つ一つのセリフ、シーンを、どういう意図を持って書いたのか、ということを知っているからこそできる、という演出があると思うんですよ」

対談中の一コマ。互いに対する信頼、期待が、出来上がった舞台にもきっと表れる。

しかし岡本は、「不思議の森の三日坊主」については、必ずしも自分が脚本を書いたわけではない、と言う。
「この作品は、最初の発案は私でしたが、脚本自体は妻が書いたんですよ。もちろんいろいろと相談やアドバイスはしましたけれどね。妻は大変に頭のいい女性で、この脚本もとても良いものに仕上がっていると思う。脚本以外でも随分と助けてもらっていて、いつも感謝しています」

そう言ってから、岡本は笑って付け加えた。
「まあ、ぶつかり合いになることもままありますがね」

作品の魅力

人生の決断を助ける作品になる。その言葉の裏には、そのような作品にする、という覚悟がある。

このミュージカル、「不思議の森の三日坊主」が発するメッセージとは?その問いに、岡本が答える。
「いろいろな見方はできると思いますが、一つのポイントとして、大きなものにどう立ち向かうのか、ということが挙げられます。劇中の『ドラゴン』という存在は、乗り越えなくてはならない大きな存在です。そういったものにどう対峙するのか。覚悟のしかた、心の持ち方、そして仲間との協力。このミュージカルに出演する人たち、あるいは観てくださる観客の皆さんが、いずれ何かに立ち向かわなければならない時、決断する時の助けになるかもしれない。ぜひ、こどもたちが『ドラゴン』と向き合う、そのシーンに注目してみてほしいですね」

一方で中島は、主人公の「ひろし」に注目する。
「今はこどもも大人も、スマホで何でも済ませてしまうようになってしまっています。ひろしは常にパソコンを持ち歩いている少年で、それはスマホを持ち歩く姿と重なりますが、パソコンやスマホだけでは出せない答えがあるんじゃないか、と思うんです。何か大切なことを見落としていないか。スマホで調べたことだけが正しいわけではない、この舞台からは、そんなメッセージも発信されています」

そして、この作品の魅力を次のように語る。
「今の時代に必要なものを詰め込んだ作品だと思います。そして、観終わった後にはきっと、あったかい気持ちになれますよ」

この作品の初演は、23年前。しかしなお、「今」必要とされる作品だという。

岡本も言う。
「曲数も多いし、ジャンルも広い。どのシーンも楽しんでもらえると思います。贅沢なことを言えば、今回はダブルキャストなので、回によって同じ人が違うポジションにいたりする。両方観ると、きっとさらに楽しんでもらえるはずです」

そして強調する。
「まず観てほしい。コスト・パフォーマンスなんて言うわけじゃないですが、絶対に、値段以上の価値がありますよ」

熟練の経験と、若い才能。二人が手を組んで創り上げる舞台は、きっと期待を超える世界を見せてくれる。二人の姿には、そう確信させるだけの想いがあふれていた。

2020年2月22日、23日、都筑公会堂で。岡本の言葉を借りれば、「まず、観てほしい」。
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